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2008年8月12日 (火)

vol.78 癌は告知すべきか

 或る日の事である。私は和歌山県は和歌山市の城下町にいた。嘗(かつ)て私が生れ育った土地である。
 其の日は私の著書の愛読者が集まっていた。大部分が中小企業の経営者夫婦である。その仲の良いおしどり夫婦達は、平均四十才。親御さん達も健在で子供も二・三人居る典型的な中流家庭ばかりである。勉強心、向上心の旺盛な働き盛りの夫と、夫を扶け家庭を守る賢夫人の集まりである。時間と共にコミュニケーションは熱気を帯びて来る。人は、此のコミュニケーションの中から成長していく。
 此の、月に一回の例会も回を重ねる度に会話の内容が変わっていく。皆の人間性が向上し、魅力が増していくのだ。
 そんな中、一組の夫婦丈が何となく暗い。どういう事か。何時も明るい、冗句の好きな夫婦である。あまり皆の会話に乗って来ない。こういう場合は一人一人のスピーチになっても後回しにして上げる。人のスピーチを聞いてる中に、自分の問題や悩み事のヒントになって、見る見る明るくなる事が多々ある。何時の間にか解決するのである。困った時は、人の話に耳を傾ける事である。塞ぎ込んでいても何も解決しない。
 だが、そのSさん夫婦は時間が経っても浮かぬ顔をしている。どうもヒントに行き着かないらしい。暗い顔の侭のSさんのスピーチと相成った。
「実は妻が癌なんです。余命半年と言われました」
 衝撃が走った。その場の空気が止まった。夫のマイクを持つ手が小刻みに震えている。
 妻は俯いて息をしていない――やや有って、夫が涙声で語り出す。
 Sさんは親や子供を安心して妻に任せていた。それ位甲斐甲斐しい奥さんなのである。仕事も順調で人にも好かれ、付合いの多いSさんは家庭の事は殆ど奥さんに任せ切れたのである。その筈であるが……違った。
 愚痴の一つも言わず、何時もニコニコして全ての事を内に仕舞い込み、そのストレスが癌という岩の様な塊となって襲いかかって来たのだ。
 多少の体調の悪さも、気の所為と頑張って来た奥さんが、夫と一緒に受けた健康診断で、癌を告知された。
 癌告知に於いて、どういう方法を用いるか――医者は考え、悩む。
 その侭診断結果を本人に通知する医者は少ない。心情を察するからである。
 告知は大抵の場合、先ず配偶者にする。配偶者だってショックである。医者も辛い……。癌は本人に告知すべきか、せざるべきか。 つづく

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