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2009年11月17日 (火)

五木の子守唄

――沈没阻止に人生を賭けた人――

4. 正調「五木の子守唄」は聞いている者を……
 二階の端の、一番広いと思われる部屋に案内される。窓際のソファに腰を掛け、眼下の川辺川を眺める。絶景である。陽が落ちて、川面が深緑の色をしている。
 此の辺は勾配が殆ど無く平地の様になっているので、川の流れは極端に緩く、たゆたう様にゆっくりと下流に向かう。まるで湖面を見ている様である。下流の方を見ると、川を挟んだ双方の山が迫り、川は漸々(だんだん)肩を窄(すぼ)めて、申し訳無さそうに山間(やまあい)に消えて行く。
 夕闇が迫り、川面も山々の木々も黒染(くろず)んで来ると、まるで白黒の画面を見ている様である。美事な墨絵の世界をも感じさせる。幽玄の世界である。
 自然の偉大さと尊厳、その営みの素晴らしさが犇々(ひしひし)と胸を打つ。此の自然を、此の素晴らしい風景を、人間が破壊しようとして居るのである。
 今の中に、確(しっか)りと眼に焼き付けて置こう。私は、山と川面の区別がなくなり、一面の闇になる迄、此の自然の営みを眺めていた。
 下界の闇とは対照的に、天空は深い濃い青が澄み渡り、無数の星がキラキラと、光り輝いて……溜息の出る位綺麗である。此の天界に吸い込まれ度い衝動に駆られる。こんな美事な光景は、ガスッてる東京の空では願う可くもない。
 至上の幸福感に浸り乍ら♪おどまぼんぎりぼんぎり、ぼんからさきゃおらんと~♪と唄っていると、
「あら、お上手ですね」と、従業員の女性が食事の膳を持って入って来た。
「いやいやー、お恥ずかしい」と謙遜。
「あら、お客さん、未だ着替えてなかったんですか。お風呂に入ってから食事にしますか」
「いやいや、風呂は後にして、今頂きます」私の夕飯は、米の代わりに酒なので、熱燗を頼む。
 暫くして、お銚子を二本持って来て、注いで呉れる。くいっ、と一口でお猪口(ちょこ)を空け
「あなたも一杯どうですか」
「いえ、結構です。飲むと仕事になりませんで」
「一杯位は良いでしょう」と、お猪口を突き出す。
「いえいえ、ほんとに。直ぐ酔っ払っちゃうんですよ」と両手でイヤイヤ。

              つづく。             

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