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2009年12月 2日 (水)

五木の子守唄

――沈没阻止に人生を賭けた人――

14. 自分の意志とは反対の方に……
“よーし。入社出来ないならそれでも良い。監督への道は遠くなるかも知れないが、美術部や大道具の部門で、臨時雇いでも良いから潜り込み、時期を見よう”
 何が何でも映画作りに参加したかったのである。どんな端くれでも良い、映画に携わり度い。と必死で、あちこち奔走していた。
 そんな或る日、故郷から悲報が入った。父が倒れた。急ぎ五木村に帰った久郎が、その侭五木に居着く事になろうとは、本人自身、思ってもみなかった事である。
 父は一命を取り留めたものの、その侭半身不随になり、生涯病床の人となって了ったのである。父の事業を継ぐ者は、久郎しか居なかった。否も応もない。
「東さん。好きな道を歩めないというのは辛いですよ――。何と云うか……全身の力が脱けちまって……うーん……其処で、斯(こ)う考える事にしました。今度生まれ転(か)わって来た時は、何が何でも、何があろうが映画人に成ろうってね。
 その代わり、今生では与えられた運命を懸命に生きる。そうすりゃ、神様も来世では私の好きな様にさせて呉れるだろうって」
「ふーむ。それにしても良く割り切れましたね」
「未練と云えば此の年になってもね……昔の仲間で監督や役者や脚本家に成ってる奴がいっぱい居てね。時々、懐しくなって電話に手が伸びそうになります……。でも、掛けた事は一度もない」
「え? 何故?」
「あれは私の夢……今や、世界が違う。奴等はそれが現実」

“もし田山さんが思い通りに生きていられたら……今頃は巨匠と称われ、数々の名作を生んでいるに違いない”
 映画人でもある私は、思い通りに生きて居られる自分が申し訳ない。もっともっと毎日を、一日一日を懸命に、怠けずに生きねば――と深い深い反省に駆られた。
 
 人生は順風満帆ではない。
 田山さんの様に、自分の意志とは反対に生かされる人生も……
 久郎青年の波乱は……これから始まる           つづく。
 

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