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2010年1月 6日 (水)

それは子守娘達の魂の叫び……

28. ニヤッと笑う顔に頼もしさが……

 昭和六十三年十月初旬。
 私は、半年振りに三度目の五木村訪問を果たした。
 過疎化が進み、村は淋しくなる一方である。
 山の頂上から見る“ふるさと五木の郷”は、秋の陽射しを受けて美事な景観である。温かい、豊かな農村の集落に見えるのが、何とも云えず皮肉な事である。

 代替地は造成され、何軒か新築の家が建っていた。水没予定地より奥の方に登れば、素晴らしい景観だと云うので、端海野(たんかいの)の方まで行ってみた。
 奥深い山の空気は、澄んで実に美味しい。山鳥の囀(さえず)りが心を和ませる。
 木々の緑が目に眩(まぶ)しく、その匂いは心を洗う。
 川の流れる音が耳に心地良く、水の間に間に頭を出す岩は、苔むして神秘的だ。

 人の踏み入らない処を、枝を掻き分け乍ら川に沿って登って行くと、炭焼きの跡と思われる穴が幾つか有った。木も苔むしていた。
 枯れ葉を踏み締める心地良い感触が、足の裏に伝わり浮き浮きとして来る。
 行き止まりと思われる岩の脇に、今迄見た事のない綺麗な、大きな滝を見た。
 滝はゴーゴーと音を立て、休む事なくその水を下に叩きつけている。その名も、大滝である。
 私は暫し、茫然とその滝を眺めていた。何とも云えない感動である。
 この滝は、土地の人でも滅多に見に来ないようである。勿体ない。遊歩道的に整地すれば立派な観光になる。此の辺りを掘れば、屹度温泉も出るだろう。温泉が出れば、此の大自然の景観も含め、観光立村として、五木村は再建出来るに違いない。

 五木荘の田山さんは健在であった。頭の白いモノが心なしか増えた様であるが、それが一層、初老の品格を高めている。観光立村の話を切り出して見ると、
「村議も村役場の連中も計画しているが、埒(らち)が明かん。真剣さが足りん。私に残された道は、観光立村しかないです。藤田部落にダムサイトが出来、新しい国道が山奥まで続き、どう整備されて行くか、私は今、様子を見とるんです。様子を見乍ら計画を立てようと思ってますよ」ニヤッと笑う田山さん。
 徒(いたずら)っぽい笑顔の田山さんに、何とも云えぬ頼もしさが漂う。
                                       つづく。

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