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2010年1月14日 (木)

肝っ玉姐さんの湯の町騒動記 3

3. 不思議な魅力を持ったママさん

 その夜も、浴衣姿に下駄を突っかけ出掛けようとした時、フロントから声が掛かった
「今夜は何方(どちら)へ?」支配人の勇さんである。此の人のお母さんが、妻さんの弟の乳母をして呉れた事もあって、家族同様の親しみがあった。私は最近贔屓(ひいき)にしている小料理屋の名を告げる。
「ああ。あそこは良心的で、ママさんも良い人でしょう」
「ええ、人情味があって良いですね。昨夜なんか一緒に演歌を唄ってて、良く見たら涙を流してるんですよ。昔の彼の事でも想い出したんですかねェ」
「そうですか。彼女は未だ四十才ソコソコですが、男運が悪くてねェ。苦労人なんですよ。彼処(あそこ)へ行くんですか」
「ええ。でも、その前に一軒開拓しようと思います」
「じゃ、私が案内しましょう。今夜は私も手が空きましたので、偶(たま)には御一緒に」と云う事で、二人の道行きと相なった。
 浴衣姿で賑わう西(さい)の河原通りに、スナック“あじさい”が在った。勇さんの後に従いて店内に入る。外の明るさと打って変わって、ぐんと店内は暗い。
「いらっしゃい! あら、しばらく」
「暫くです。今日はお客さんと飲みに来ました」勇さんが揉(も)み手で腰を屈(かが)めたので、私の眼の中にカウンターの女性が飛び込んで来た。瞬間、私は自分の眼を疑った。和服姿の麗人である。
 若い!眼が大きく、鼻がスッキリと高い。色白である。情熱的な口を大きく開けて白い歯を見せ、
「それはどうも。どうぞどうぞ、カウンターにどうぞ」素的な笑顔である。
 こんなに屈託なく満面の笑みを浮かべる事が出来る人は、滅多にいない。凄く嬉しそうな笑顔である。これには連られる。何時の間にか此方もニコニコしている。溢(こぼ)れる笑顔から、零(こぼ)れる色気。それでいて、清潔感が有って生活感が無い。若さでピチピチしていて、落ち着きが有る。
 背はちょっと高めで、中肉の身体付きだが肉感は有る。着物の着こなしは抜群で、洗練されていて見事に鍛え抜かれた、隙(すき)の無い、超美人である。
 それでいて、玄人独特の卑しさや崩れが微塵も無く、素朴さと品の良さを併せ持っている、という不思議な魅力を持ったママさんである。 
                    つづく。
 

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