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2010年1月15日 (金)

肝っ玉姐さんの湯の町騒動記 4

4. 粋の良い啖呵調(たんかちょう)に引き摺(ず)られ

 大陸的な奔放な面貌(かおだち)と屈託のない口調。そして色白の、和服の似合う折目正しい態度の日本調という、対照的な特徴を合わせ持った、非常に贅沢な、見事なママさん。
 年は二十代後半、よく行って三十才(当っていた)。
 未だ八時過ぎの故か、我々が一番手の客であった。温泉街の飲み屋は、大体、九時か九時半頃にならないと客が来ない。旅館の客は六時頃から八時半頃迄、食事兼宴会をやっていて、二次会的雰囲気で外に繰り出すのである。地元の人達も同じで、一旦自宅で食事をして、一休みしてから飲みに出て来る。
 勇さんが私の紹介をする
「此の方は東京の人で、東さんです。ウチのホテルはもう十年も利用して頂いてるんですよ」
「そうですか。じゃ、草津ホテルは東さんで保(も)ってる様なもんだ。アハハハハ」二人も連られ
「そうそう、アハハハハ」
「あじさいの千春です。ま、こんな店でこんな美人で悪いが、機嫌良く飲んでって下さい」
「ハイ!」
「だけど、東さん。どっかで見た事あるねー。(しみじみと私を睨み)何処だったかねー」
「こんな顔は何処にでもあるからねー」
「そうだいね。あっ、そうだいねって云っちゃいけないやね。アハハハ。そんな事ねえよ、変わってる顔だいね。あ、変わってるって云っちゃ悪いやね。アハハハ。特長のある顔。そう、特長のある顔だから一度見たら忘れないやね。えーっと、何処だったかねー」我々は、ママの粋の良い啖呵調に気持ち良く引き摺られて行く。何とも云えない気分の良いテンポと耳触りである。
 私の頼んだ熱燗がついたので、乾杯となる。勇さんとママは、ビール。
「暇な店にようこそ。これで今日は首を縊(くく)らなくて済んだいね。アハハハハ。かんぺい!」
 美貌の容姿とは対照的に、男性的直線的な群馬訛(なまり)丸出し。普通なら悄然(げんなり)とする筈だが、何故か小気味良い。楽しくなって来る。荒っぽい奔放さと、美貌とその気品が同居して、何とも云えない妙な魅力を仄(かも)し出す。こんなタイプに会ったのは初めてである。
          つづく。

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