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2010年1月17日 (日)

肝っ玉姐さんの湯の町騒動記 6

6. 手品の様に中味が消えて行く……
 
「思い出した!」と、ママさん素頓狂な声を出し、大きな眼を更に徒(いたずら)っぽく大きく開けて、
「あ・ず・ま・さ――んッ」と尻上りに音程を上げ乍ら粘っこく絡み付いて来る。
「どうしたの、ママさん。気持ち悪いねー、どうしたの」
「分かった。思い出したぞー。TVだーTVに出てるだろ!」
「出てる、出てる」と、勇さん。
「思い出した。見た事ある訳だよ、毎日見てるだよ」
「えっ、毎日?」
「そうだよ、毎日やってるよ。遠山の金さんだろ? あれに出てるだろ!」
「ああ、あれ。金さんにはレギュラーで出てたね」
「ああ、やっぱり、ホラ、あの赤いパンタロン穿(は)いて芸者にくっついてる、あれ何て云うんだっけ」
「幇間(ほうかん)、太鼓持ち」
「そうそう、たいこもち。アハハハハハ。ナヨナヨして、おカマみたいで、アハハハハハハ――あれだあれだ、そっくりだよ。アハハハハアハハハハ、似てる似てる」
「あれは去年終わったんだけど、再放送でやってるのかな」
「そうそう、昼間やってるよ。毎日あれを見てから風呂に入って、店に出て来るんだよ。そうかい、見た事ある訳だ。毎日逢ってんだ――。そうかい、オカマなんかい! アハハハハハ、アハハハハハ」(おカマじゃないよ、役者だよ)
 兎に角明るい。底抜けに明るい。人間味があったかい。ポカポカとあったかい。 
 それにビールの飲みっぷりが見事である。コップを右指四本で優しく持って、小指を浮かし、左手をコップの底に添え、一気に音も無くスーッとコップを傾けて行く。
 まるで、手品を見てる様に、コップの中味は消えて行く。鮮やかである。
 中味が完全に消えて、天井を向いた顔が、下に戻って来る時の表情が、また素晴らしい。これ以上の喜びは無いという風で、眼を大きく開き、
「あー、美味しい」
 見ていて、実に気持ち良い。感服。
                          つづく。

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