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2010年2月 2日 (火)

肝っ玉姐さんの湯の町騒動記 8

8. 客と客とを自然に結びつける…

 入口のドアが勢い良く開き
「よう、チーチャン。頑張ってるかい。」三人連れが、ゾロッと入って来る。
「見ての通りだい、頑張らして貰ってますだ、お代官様」
「よしよし、今日はたっぶり飲むぞー」
「有難うごぜえますだ。ところで三人揃ってる処を見ると、何か企んで来ただかね」
「いやー。会議の延長で二次会になったが、酒を飲んだら余計揉(も)めてね」(と、一番の年配者)「わからず屋ばっかで、話が進まねーから抜け出して来たんだ」(と、四十がらみ)「ま、要するに意味の無い会議をやってるより、チーちゃんの処で飲んだ方が余っ程意義がある、という事で参上仕(つかまつ)った」と、三十五、六の二枚目。
 そこでママさん
「んだんだ、正解よ。どんな会議だか知らないが、大抵ね、財政だの行政だのってのは町の為とか村の為というのは建前で、何か一つ事をするには得をする者と損をする者がいる。利害が絡みや揉(も)めるのは当り前。誰か一人、皆を捩伏(ねじふ)せて“俺に従いて来い!”ってのが出て来ないと駄目だわさ。どんぐりの背比べじゃ埒(らち)が明かねえから、あじさいで酒でも飲んでた方がまだましだ、アハハハハ」
 此のママさん、仲々の事を云う。皆「んだんだ」と云う事になって、
「チーちゃんの健康とあじさいの繁昌を祝して、カンペイ!」となる。
 紹介された訳でもないのに、何時の間にか地元の人達に溶け込んでいる自分に気付く。
 独自のグループの話題に共通性を持たせ、客と客とを自然に結びつける。マイナーな会話を、痛烈な風刺を入れ乍ら陽気なメジャーに転換する、という人間としては相当熟していないと出来ない芸当を、此の若いママさんはいとも簡単にやってのける。私は舌を巻いた。その巻いた舌が捩(よじ)れて千切れそうな事態が、その後やって来た。地元の人や、浴衣姿が次から次と入って来て、九時半には満員になっていた。
 此の店はカウンターが八人、ボックスが十六人、座敷が六人の三十名が定員の小さな店である。
 午後十時。定員を遥かオーバーの四十名以上になった。人でギッシリである。
 扨、此の満員の客を若きママさんは、たった一人でどう捌くのか  つづく。

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