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2010年2月12日 (金)

肝っ玉姐さんの湯の町騒動記 13

13. あたしの店で野暮は許さない……

「ヨオ、ヤッター!」「上手い上手い」大拍手。中の一人が、
「そりゃ、チイと褒め過ぎだわね」
「そんな事ない、そんな事ない。これは事実だ。うん、全くその通りだ。アハハハ」と、ママ。
 隙さず又一人、
「その通りだけんど、ママのは何と云うか、笑い皺(じわ)が目立って来て尻も垂れて来たから、花は花でも枝垂(しだ)れの姥桜(うばざくら)って処かな」
「当り当り」「上手い上手い」と、これ亦大受け。
「そんなに垂れて来たかね」と、ママさん頻(しき)りに自分の尻を眺めたり、顔を鏡に映して、皺を点検するから、またまた大笑い。
 そんな処に、地元の四人組が入って来て、ボックスに坐る。相当(かなり)酔っている様である。急に私の隣りのAさんが、肩を窄(すぼ)めて大人しくなる。ボックスの方から、不動産屋風の男がぶっきらぼうな声で、
「ヨオ、A。随分景気が良いんだね、酒なんか飲みに来てよー。俺の方は大丈夫だろうな。チャント返せよ!」ボックスの方を振り返り、卑屈に頭を下げるAさん。一瞬、座が白ける。ママがビールをボックスに配び乍ら、
「どうしたい、Bさん。金貸しでも始めたかい?」
「そうじゃねぇけど、Aが泣きついて来たから貸してやったのよ」
「へえ、そりゃ良い事したね。苦しい時はお互い様ってね。嬉しいもんだよ、持つ可(べ)きものは友ってね。あたしゃ又、あんたが取立屋にでもなったのかと思ったよ」
「そうじゃないよ。そうじゃないけど貸した金は返して貰わなきゃ」
「ふーん。それで返済日は何日だい、期限は過ぎてるんかい?」
「いや、未だだよ」
「いくらAさんに貸してるんだい」Aさん堪(たま)らなくなって、
「ママさん、イイヨ。これは俺と彼の問題だから」
「いいから、いいから。あんたは其方(そっち)で呑んでりゃ良いの。あたしの店で斯(こ)ういう話を持ち出されちゃ、あたしだって放っては置けないよ」
「ママには関係ない事だよ」と、Bさん。
「あたしに関係ない事を、どうしてあたしの店で大声で云うんだい」
「……」詰まるBさん。                つづく。

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