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2010年2月13日 (土)

肝っ玉姐さんの湯の町騒動記 14

14. あじさいは異次元空間である……

「いくらAさんに貸してるんだい、云ってごらんよ」
「…二十万」
「え? 二十万? アハハハハ。あたしゃ亦、何百万も貸してるのかと思った。二十万位で取立屋みたいに請求されたんじゃ堪らないよ。ねえ、友達ってそんなもんじゃないだろ。然も大勢の前でさ。期限にAさんが払えなきゃ、あたしが立て替えるから此の店でそういう不粋な事は云わないで呉れるかい」
「分かった。悪かったよ。今日は一寸悪酔いしてるんだな」と、悄気(しょげ)るBさん。
「そうだよ、Bさん。今日のあんたは始めから可笑しかったよ。俺達にも訳の分からん事で突っ掛かって来るしよ」と、一緒に来た仲間の一人。
「うん……そうだな。いかんな」と、Bさん自分の頭を小叩(こづ)く。
「そうか。Bさん、何か厭な事が有ったんだね。人生には色んな事が有るさ。だけどさ、どんな事が有っても人に当たり散らしたり、不愉快にさせちゃいけないよ。友達は大事にしなきゃ」
「そうだ。そうだな、ママ。悪かった。Aチャン、御免な」
「そうかい、分かって呉れたかい、有難さん。此のビールは私の奢(おご)りだ。カンペイしよう。これからカラオケ合戦でもやるか!」
「いいぞいいぞ、やろう!」と、声が掛かる。店内一斉にカンペイを皮切りにカラオケ合戦となる。お座敷の引けた芸伎さんや、浴衣姿のお客さんが次から次と入って来て、店内はどんどん賑々しくなって行く。唄に合わせて踊る者から、掛け声を掛ける者、手拍子を打つ者と、あじさい大盛況の中にその夜も更けてゆく……。

 千春ママに肩書きは通用しない。
「俺は何処何処の○○だ」なんて云おうものなら「それがどうしたい」と、切り返される。それも喧嘩調ではない。ニコニコし乍ら、さり気なく云われて了う。云った方はカクンとなって勝負は終わり。
 どんな事でも勝負は早い。あっという間に終わる。どんな事態でも解決は早い。あっという間に結論が出る。あじさいの空間は異次元空間である。あらゆる肩書きも、あらゆる垣根も、千春マジックで取り除かれ、皆仲良く飲める。素晴らしい空間である。素晴らしいママさんである。                             

                    つづく。

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