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2010年2月16日 (火)

肝っ玉姐さんの湯の町騒動記 16

16. 何処に根を下ろすか……

 千春は十五の年、就職の道を選んだ。学校の先生や家族は、その選択に驚いた。
 自給自足の延長の様な生活ではあったが、千春が高校に行くのを断念しなければならない程、困っている訳ではなかった。自然の中で育ち乍ら、此の時千春は既に自立していた。大人であった。家庭の中でも中心人物であった。
 物事の取り決めは千春の云う通りにすると、不思議に上手く行った。精神的に、家族の皆から頼られていた。
 千春は早く働きたかった。セーラー服を着て三年間学校に行くのは、時間のロスに思えた。社会に出て、学問がどれ程の役に立つと云うのか。私は働きたい。働いて、皆の生活を楽にしてやりたい。此の家族を引っ張って行くのは私なのだと、心に決めていた。

 中学卒業と同時に、渋川のレストラン兼料理屋に、三年の約束で就職した。
 働くのが好きな千春は、水を得た魚の様にピチピチとその才能を発揮し出した。一を云えば十を理解し、人の何倍もの早さで消化して了う。半年もしない中に、経営者や客の求めているものが、要求される前に先取り出来る様になっていた。
 掃除から買い出し、接客、会計、と自ら仕事を探(み)つけ、積極的に働いた。働くのが楽しくて楽しくて仕方がなかった。
 給料を貰うと、それを家族に送ってやるのが無上の喜びであった。千春のテキパキとした働き振りと屈託のない性格は、周りの人をも明るくして行った。
 三年間。きっちり勤め上げた千春は、約束通り料理屋を辞めた。千春十八才の春の事である。
 料理屋の引き留めや縁談話も有ったが、千春の心は決まっていた。上の兄や姉は結婚して、自分の家庭の事で精いっぱいである。弟や妹は未だ学校である。実家は未だに自給自足の延長である。私が父母や弟妹の面倒を見なくて、誰が見て呉れると云うのか。
 千春は独立したかった。小さな店で良い、自分の力で稼ぎたい。人に使われていたんじゃ、本当の力は発揮出来ない。然し、今直ぐ独立するのは無理である。資金も地盤も人脈も無い。おまけに若過ぎる。
 千春は考えた。先ず、何処に自分の根を下ろすか……だ。  

                   つづく。

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