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2010年2月 3日 (水)

肝っ玉姐さんの湯の町騒動記 9

9. 蔵の三つも持っといで!
 
 カウンターの客は真直ぐ坐る事が出来ず、椅子を共有し乍ら、三名オーバーの十一人が斜めに坐り、まるでコーラスグループが歌を唄っている時の様な恰好で、賑々(にぎにぎ)しく呑んでいる。
 ボックスには犇(ひし)めき合って二十人以上が坐り、座敷も地元と観光客が入り混じって、ギューギュー詰めである。和気相々である。
 私が恐れ入ったのは、此の満員の捌き方である。店員はママさん、たった一人である。客がどんどん増えて来ても顔色一つ変わらない。慌てず騒がず、平常の侭(まま)である。
 私達への会話も途切れず、注文の酒やおつまみをセットするテンポも変わらない。それでいて手際良く、客を待たせない。口も間断なく動いて、私達カウンター客とのやりとりや、奥の座敷の浴衣姿が「ママ―! 暫くだねー」と来りゃ、そちらに笑顔を向けて、
「そうだねー! 半年振りじゃないかい。少し太ったね。銭ばっか貯めるからだよ! 偶(たま)にゃ草津に銭っ子落としに来なきゃ。アハハハ」と笑い飛ばし、他の客の注意を座敷に向けさせ、客同士の話題が一つになってる間、タバコに火を付け、余裕で煙を吹かしてる、といった案配である。

 どんどん客が増えて来ると、注文の品を店内に運ぶ事も出来ない。通路まで塞(ふさ)がってるからだ。
 さあて、ママさん。どうするかと思いきや
「○○さーん、○○上がったよ。カウンター迄どうぞー」と来た。客も客で、
「ハイ、ハーイ」と、ニコニコ顔で取りに来る。気の利いた客は、呼ばれる前に様子を見ていてタイミング良く取りに来る。その時に交す、二、三の会話が楽しみで遣(や)って来るようである。
「済まないね。セルフサービスで。有難さん」
「なーに、チーちゃんの為なら例え火の中、水の中ってね。どうだい俺を亭主にしねえかい。良く働くぞー」
「髪結いの亭主じゃなくて、スナックの亭主かい?」
「そうだそうだ」
「駄目だね、女房を働かせる様じゃ。蔵の三つも持っといで。アハハハ」
「駄目だ、こりゃ。アハハハ」といった具合である。見事に、たった一人で捌いてのける。    つづく。

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