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2010年3月 4日 (木)

肝っ玉姐さんの湯の町騒動記 19

19. 無事脱出に成功した…

 Mちゃんは、その日から蛸部屋(たこべや)同然、雁字搦(がんじがら)めにされて了った。三度の飯は食べさせて貰えたが、給料は呉れない。二日か三日置きに、小遣いとして千円呉れる丈である。これでは逃げ出す事も出来ない。おまけにバンドの程度も低く、一流を目差しているMちゃんにとっては、マイナスにはなってもプラス材料は何一つ無かった。不平を云えば、殺されるんじゃないかと思う位、殴るは蹴るはの目にあう。
 Mちゃんは困りに困って、千春ママに相談した。Mちゃんは、草津に連れて来られて一ヵ月目位で“あじさい”にジュースを飲みに来た。それ以来、週にニ、三度顔を出し、カウンターの隅でジュースを大人しく飲んで帰る。来ると、二時間程坐っている。
 Mちゃんは、千春ママをお姉さんの様に慕っていたらしい。ママは、Mちゃんがカラオケで歌を唄うと、ジュース代を無料(ただ)にしてやった。
「Mちゃん、頑張りな。一生懸命生きてりゃ、人間悪い事許りじゃない。必ず良い事が遣って来る。その日を信じて、腐らず頑張りな、あんたは見込みがあるよ、私が保証する。だから怠けずに、毎日稽古に励みな」何時も塞(ふさ)ぎ込んで入って来るMちゃんに、ママの激励が飛ぶ。そうすると、見る見るMちゃんの目が輝いて来るのだった。
 が、その日は違っていた。泣き乍ら入って来たMちゃんを、慰める方法は無かった。
「僕は今夜逃げ出す。あんなバンドで歌わされる位なら、死んだ方がましだ。殺されても良い、絶対バンドには帰らない」余程酷い目にあったらしい、Mちゃんの決意は固い。
「そうかい。あんたの人生だ、あんたが決めた事をあたしは兎や角云わないよ」
「ママ、一丁前に成ったら逢いに来るよ」
「うん。MちゃんがTVに出て来るのを楽しみにしてるよ。もう、旨い話に乗るんじゃないよ。それから、ほとぼりが醒める迄、東京に帰っちゃいけないよ、手が廻ってる筈だから。成可く遠くへ行くんだね」
 ママはその日の売上を、そっくりMちゃんに持たせてやった。
 翌日、バンドの連中が聞き込みに来たので、Mちゃんの無事脱出を知った。勿論、恍(とぼ)けてやった。

 それから一ヵ月程経った、或る夜“あじさい”にMちゃんから電話が入った。

                   つづく。

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