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2010年3月 6日 (土)

肝っ玉姐さんの湯の町騒動記 21

21. 又、一肌脱がなきゃ…

 男はコップに残っていたビールを一気に呷(あお)る。
「飲みっぷりが良いんだね」と云い乍ら、ママがビールを注ぐ。此の三十過ぎの男、どう見ても堅気(かたぎ)には見えない。といって、筋者(すじもの)の様に肚(はら)が据(す)わっている様にも見えない。ママには、此の男が何者か分かっていた。
「草津は寒いだろ。何処に泊まってるんかね?」
「……」
「あれま、機嫌が悪いね。怒ってるんかい」返事の代りに、男はビールをママに注ごうとする。
「有難さん」注いで貰ったビールを、スーッと一気に呑むママ。
「A子が世話になってるんだってな」
「………」
「連れて帰るから、此処へ呼んで呉れ」ママは黙った侭、男を睨(にら)み付ける。
「俺が大人しい中に連れて来いって云ってるんだよ!」と、凄んで見せる男。
「半端な男だね。そんなだからA子ちゃんに逃げられちまうんだ」咄嗟(とっさ)に男の手が、ビール瓶を逆手に握る。殆ど同時にママの手がその手を押え込む。
「何をしようってんだい! あんた、Tさんとか云ったね。此処は東京じゃないんだよ! Tさん、此の瓶を上にあげて御覧よ。あんた、此の草津から無事で出られないよ。女だと思って舐(な)めるんじゃないよ」男のビールを掴(つか)む力が強くなる。ママが手を離し、開き直る。
「そうかい。さあ、こんなチンケな店で悪いがやっとくれ。毀(こわ)されたって大したもんじゃない。やる限り、覚悟してやるんだね」
 ママの気迫に気倒された男は、ビールから手を離し、暫く俯(うつむ)いていたが、のそっと立ち上がり、背を屈(かが)めて店内をウロウロ歩き出した。血走った眼でテーブルを睨んだり、ギョロギョロ店内を睨(ね)め回していたが、いきなり奥の壁に
「ウォーッ」と、叫び乍ら走って行き、ボカボカと壁を数回殴り
「コンチキショー!」と、怒鳴り乍ら、思い切り蹴飛ばした。
「オウオウ、元気いいじゃん!」と、ママが囃(はや)す。男は振り返り、ジーッとママを睨み付ける。ママは涼しい顔。張りが失くなったのか、男はスゴスゴとカウンターに戻って来る。
「A子を呼んで呉れないかなあ」と、情なさそうに呟く。
 ママは“此の男、相当A子に惚れている。満更悪い男でもなさそうだ。又一肌脱がなきゃならないか”と、溜息を吐く。   

                         つづく。

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