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2010年3月 8日 (月)

肝っ玉姐さんの湯の町騒動記 23

23. 男は女次第なんだよ…

 翌年の春先。
 A子が千春ママの家に、息を弾ませ飛び込んで来た。正装している。
「Tが迎えに来たの。これから東京に帰る」
「Tさん、何してるんだい。連れて来りゃ良いのに」
「私もそう云ったんだけど、恥ずかしくて逢えないんだって。バスターミナルで待ってる」
「そうかい。あの時は女だてらに云い度い事云って……謝まっといて呉れるかい」
「ママの啖呵、効いたみたいよ。半端と云われて相当口惜しかったみたい。未だ未だ半端だから見透かされるみたいで、逢うのが怖いんだって」
「ふーん。そんな事云ってるん。Tさん、もう大丈夫だね」
「有難う、ママ。Tはもう立ち直れないと思ってたから、嬉しくって……ママのお陰」
「あのね、A子ちゃん。あんたは男が非道(ひど)いからと云って、自分を悲劇の主人公にして逃げ捲(まく)って来たけど、男を一丁前にするのも、駄目にするのも女次第なんだよ。あんたが惚れた男だろ。逃げ出しちゃいけないよ。男が地獄に墜ちたら、あんたも地獄に墜ちな。何処迄も一緒に行かなきゃー。あんたも半端だったんだよ。二度と逃げ出しちゃいけないよ」
「うん……分かった。そうする」A子は別れを惜しみ乍ら、そそくさと帰って行った。その後の二人の消息は分からない。

 斯ういった事は温泉で店を開いていれば、始終ある。始終あるので、普段は過去の事を忘れている。私に色々訊かれて想い出してる中に
「そうだねー。色々あったね」と、ママさん自体驚く程である。
 駆け落ちして来た男女に、働き口を世話してやったら、その後で追い駆けて来た、男の奥さんに泣きつかれ、あちらを立てればこちらが立たずと大弱りした事や、東京から遣って来たという夫婦が、大盤振舞いをして、ママも大喜びで御馳走になっていたら、車に物を取りに行くと出て行ったきり、待てど暮らせど戻って来ない。店に残していった紙袋を開いたら、風呂桶と歯ブラシが一本出て来て、ズッコケた事や、珍談奇談がいっぱいある。

                         つづく。
 

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