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2012年5月18日 (金)

もう一つの戦争 番外8

8.ボチさんへの通信4

 ボチさん…。美代子は身重の体で、無事に和歌山に辿り着きましたよ。
 其処から、此の親子の底辺を這(は)い摺(ず)り回る、もう一つの戦争が始まったのです。(もう一つの戦争は、小説として後に出版します)
          ××××
 13年前。ミミさんが、
「君のお母さんに逢いに行きます。近衞として、50年も知らん顔して来たお詫びと、此処まで育てて呉れたお礼を言いに行かなきあ」と突然言い出した。
 何年もその事を思っていたが、決断するのに周りの事もあって、決断するのに時間が必要だったそうです。
「それなら、和歌山から東京に呼びますよ。暫く東京に来てないから喜びますよ」と言ったら、
「とんでもない。永い間辛い思いと苦労をされたんだから、俺から行くのが当り前、行きたいんだ」
 その言葉を聞いた時、何とも云えない感動を覚えました。母がどんなに喜ぶか……ミミさんは本当に兄貴思いなんですね。
          ××××
 生まれた子は髪の毛が多く、食糧事情の厳しい日本に在って、丸々とした丈夫な子だったそうです。
 兎に角、良く笑う子で、誰に抱かれても、誰にあやされてもケラケラ、ケラケラ、キャッキャッ、キャッキャッと喜び、周囲の人達を和ませたそうです。
 近衞の子だという事を、ボチさんが日本に帰って認知する迄は、秘密にする様に、と秋本中尉に言われた事を美代子は忠実に守り続けましたよ。
 その秘密は、親は勿論、和歌山の誰一人にも打ち明かされなかった。
 公然と威張って言える立場でない事は勿論、近衞家に迷惑をかけてはいけないと、ひっそり日陰の身を過ごしたのですよ。
 俺らは誰の子とも明かされず、私生児として育ちました。唯、美代子は息子に「あんたのお父さんは戦争で死んだんだよ、お国の為に戦ってね。お前が大きくなって、物事が分かる様になったら教えて上げる」と、だけ。
 その秘密が突然破られたのは――   
                       つづく。

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