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2012年6月13日 (水)

もう一つの戦争 番外11

11.ボチさんへの通信 7

 日本に帰せば近衞は必ずやロシアに矢を向ける。政府の高官になる事は間違いない。生かして帰すには方法は唯一つ。
 スパイにして帰せば、ロシアにとって最高の利益となる。
 幾夜も幾夜も脅しと説得が続くが、その拷問(ごうもん)とも云える長時間の責めに近衞は屈しなかった。屈しない処かビクともしなかったのである。その原動力はプリンスとしての誇り、揺(ゆ)るぎない孤高の誇りである。
 プリンス自体が“日本国”である事が、ロシアには理解出来ない。
 生き延びる為に国を売るプリンスが何処にいる。
 国の為なら自ら死する事も厭(いと)わない、否、自死を何の惑いもなく出来る事を、ロシアは気付きもしないから無駄な説得を続けたのである。
「誰が国を売るか、無礼者めが!!」と憤った事でしょうね、ボチさん。
 確かに帰還の遅れた人達の中に、共産党の洗脳を受けたり、工作員の契約をし、日本に帰り着き、ロシアの為に働き生涯を終えた人も一人や二人じゃない。売国奴である。
 歴史は事実をネジ曲げている。恰(あたか)も近衞が日中戦争を起こさせ、大戦への道を作ったと思わせる報道も多い。陸軍の勝手な行動が事件を起こし、その尻拭いの為に政府の意向とするしかなかった、首相の苦悩を知る人は殆どいない。首相の、否日本国の不幸である。
 戦争と国の犠牲となった親子にとって、こんな口惜しい事はないだろう。実子の俺らはどうすれば良いの? ボチさん?
 悲劇の続く近衞二代の後に生まれた俺ら…嫡子としては47代だか48代目の俺らは、67才の現在、貴方がたより遥(はる)かに長く生き永らえています。ノホホンと飄々(ひょうひょう)と、軽く軽く、その日その日を、世の中を世の流れを、只見乍ら健在に生きています。
 世界的危機に立っている今、俺らは何をすれば良いのですか、ボチさん。俺らが役に立つとすれば、そこには大悲劇が存在する。そんな役には立ちたくない、俺らの出番がない方が良い、ネ、ボチさん。
                        つづく。

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