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2012年11月28日 (水)

隆明の“つれづれに”6

6.思いっ切り深呼吸をすれば

 母と同居が始まって以来、日に日に陽気になって行った俺ら。登校日も多くなり、クラスの人気者になりつつあった。そんな、或る日――
 昼休みで、皆とドッヂボールに夢中になっている俺らの耳に
「あずまくーん!」と担任の村中先生の声。ニコニコ笑い乍ら駆け寄って来る。その日を境に俺らは、俺らの町のスターになるのである。人間、何時、何が起きるか分からない。だから人生、面白い。
 その日先生は授業を放って、俺らをNHKの放送局へ連れて行った。何が何だか判らない俺らに、先生は何も云わない。唯々、ニコニコしている。案内された立派な部屋に、品の良い偉そうな小父さんが入って来た。
 「いやー、東君。おめでとう! 凄く良かったよ。感動したよ。おめでとう!」と、肩を叩いたり握手を強引にしたり、先生にも何やら褒(ほ)めている。
 先生「実はね、貴方の作文が入賞したの。これから録音するから頑張ろうね」
 局の人「君の声が全国に流れるんだよ、さ、行こう」
 何が何だか判らん中に、大きな部屋に一人放り込まれた。録音室である。中央に譜面台の様なものがあり、俺らの作文が乗っている。其処に立てと云う。
 正面には壁一面に大っかい硝子張り、7、8人の眼が俺らを睨んでる。
 「それでは軽ーく、気楽に読んで見てー。稽古だからねー気楽にいきましょう。ハイ、どうぞ」
 何が気楽だ、気楽にいける訳がない。緊張して身体はコチコチ、心臓はバクバク、足はガクガク、目はクラクラ、作文の原稿を見ても、真暗で字が見えない。暫くは貧血状態である。
 「どうしましたー。深呼吸して見ましょーかー」硝子の向こうでは、皆笑っている様な感じだ。段々口惜しくなって来た。
 肚を決めて、思いっ切り深呼吸をしてやった。と、急に視界が広がり、物がハッキリ見えて来た。肚が据(す)わり出したのか、身体の緊張も、不安も、何故か、不思議に消えていくのが分かる。
 度胸が据わったのか、開き直ったのか
 俺ら「ハーイ、お願いします」録音が始まった――
                                         つづく。

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