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2013年5月 7日 (火)

隆明の“つれづれに”11

11.夕陽に向かい手を合わす母

 ヒーローの鼻が圧(へ)し折れた此の年(S.31)、悲劇は相次いで俺らを襲った。S子さんに渡した長文のラブレターが、どういう訳か悪ガキのM君が読み、学校中に知れ渡る事になる。
 担任の先生もそれを読む事になり、
「文章の運び方が実に上手い。大人でもこれを読めば心を打たれる」と教壇で喋り始めた。全然悪気はないのだが、俺らにとっては恥辱以外の何物でもない。目の玉から火花が飛び散った。ところが――
「僕が女性であれば、この人に従いて行こうと思うね、残念!」と、陰湿な嘲笑と冷かしの最中(さなか)にいた俺らにとって最高の助け舟となる。
 お蔭で、勇気ある告白人という事で、皆の見る目が変わり、小心者の六年生達が右に習えと、ラブレターが流行になった。
 それにつけても先生のパワーは凄い。マイナスをプラスに変え、俺らを再度ヒーローに押し上げて了ったのだ。恥ずかしさに居た堪れず、転校まで考えていた俺らにとって、村中先生は命の恩人である。以来、今も時々逢う恩師には頭が上がらない。
 人気を取り戻しつつあった秋の午後、大っかい磁石を紐で括(くく)り、地面をジョロジョロと引き摺り、鉄屑を拾って歩いていた。ある程度の量になると屑鉄屋に持って行き、その日も結構なお金になった。
 一週間で貯まった金で、日曜日は孤児院に行き、皆で遊び、買ったお菓子を食べるのが楽しみだった。
 そんな夕方、家に帰って来ると、物干し台に上り正座している母親の姿が、其処にあった。
 普段見た事のない、子供が見ても目を見張る程、豪華で艶やかな芸者姿である。余程晴々とした喜ばしい事があったのか……
 怖る怖る母の背に近付いた。
 肩が小刻みに震えている。
 何と! 夕陽に向かい手を合わせ、何やら呟いている。
 何事か?
               つづく。

 

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